その筋の人だったら恐いのでそのまま歩いていた。
クリスマスの井の頭公園奥、玉川上水の辺りを歩いていたと思いねえ。
痰吐き男はどうやら、俺の後でツバ吐きまくっている。
そのまま振り向くのはヤバイので、橋を渡ったところで欄干脇に逸れると
男は女を連れて歩いていった。
男は180センチはある五分刈りのスポーツ選手風だった。
高級住宅街を歩く150センチの女とスポーツ選手風男。
俺は、枯れ葉を踏みながら遊歩道側を歩いてそのカップルを見た。
どうみても爽やかな男だ。
顔は見えない。
女。
痰吐き男で良いのか?
クリスマスを過ごすのが痰吐き男で良いのか?
ここはデートコースじゃねえぞ。
市街地だ。
痰吐き男でいいのか?
ほんとうにいいのか?
俺は恐ろしい想像をしてしまった。
もし、俺が振り返って、その男がV6のメンバーの誰かだったら。
もし、俺が振り返って、その男が巨人の清原だったら。
もし、俺が振り返って、その男がワールドカップの選手だったら。
だって、そうじゃねえか。
その女は何に惹かれたのだ?
つーか、別れろ。
もういい。
クリスマス専用でいいじゃねえか。
クリスマスキャロルを読んで聞かせろ。
さようなら、黒ずくめの爽やかカップル。
もしかしたら若夫婦?