E子、辞める

E子が辞めることになった。
これで私の片思いも完結となる。

なぜ辞めることになったのか真相は知らない。
私の中では、アイスクリーム事件がきっかけになった、ということになっている。

私はアイスクリーム事件の現場にいなかった。
これは後で人づてに聞いた話だ。
当時E子は総務部に勤務していた。
E子は別のビルにある開発部に用事があり、総務部を離れた。
総務部には同期の社員がいなかったので、開発部にいる同期の仲間と話したりしていた。
E子はすぐに戻るつもりだったのだが、普段から心配してくれていた仲間達から
アイスクリームを分けてもらって食べ始めたのだった。
慣れない職場で暗かったE子も明るさを取り戻し始めた。
そこへ来たのが当時の総務部の上司で、かなり怒られたらしい。
怒る上司の立場もあるのだが、E子のストレスもかなりのものだったと思う。
アイスクリームはたった一度の過ちだったが、上司との間に確執が生まれたのだと思う。
本来、上司と部下は仲良しになれるわけがないのだが、
状況を把握せずに怒ったのはまずかったようだ。
皆は口を揃えるようにE子は運が悪かったと言っていた。
真面目で不器用な女性だったのかもしれない。

元々、E子は開発部に所属していて机は私の向かいだったのだ。
それがなぜか総務部に異動してしまうのが不思議なのだが、
力の強い部署が力を発揮してしまうのは当たり前すぎて逆らいようがない。

E子が辞めた、本当の理由はニューヨークに行くためだったらしい。
実際にニューヨークに行ったし、海外での仕事らしいこともしたと噂で聞いた。
E子には、とても酷いラブレターを渡しているので、捨ててしまっていることをひたすら祈る。

E子の送別会には多くの社員が出席した。
特に若い男子社員が目立った。
KRさんは悲しみのあまり暴れてしまった。
みんなE子のことを心配していた。
そこでE子を見送った人たちも何年かのちには辞めていった。
会社が若かった頃は、社員旅行や新人歓迎会などの行事で、
互いの年齢に関係なく、飲んだり、踊ったり、歌ったり、語ったりした。
そうやってきた仲間が一人ずつ辞めていく日が続いた。
私が入社する以前にも何人かが会社を去っていたらしい。
そうやって会社は新しくなっていくのかもしれない。

後日、E子が夢の中にあらわれて、私はドラマの主人公のように語りかけていた。
夢が覚めて、「嗚呼、夢だったか」と思った。
まあ、ろくに話もできなかったのだから当たり前だ。
でも、本当にせつなかったんだよなぁ。

つぎ

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