ビジュアルとアクション

この会社のゲームの特色は、アクションとビジュアルにあった。
アクションは画面に2センチくらいの自分のキャラクターを表示して、
それが剣を持って向かってくる敵キャラをやっつけて倒すものだ。
剣の他に魔法があって、これは自分のキャラクターから火の玉が飛び出して、
敵キャラを破壊するものだ。
敵キャラも様々な形のモンスターになっている。
これらをデザインしてコンピューター上の絵にするのがデザイナーの仕事だ。
モンスターのデザインは企画の人とデザイナーで相談して決める。
アクションは7つの舞台に別れており、それぞれ一番奥に大ボスがいて、
大ボスを倒すとビジュアルと呼ばれる電気紙芝居に入る。
ビジュアルはアクションを達成したときのご褒美の意味もある。
このビジュアルを見たくてゲームを解いていくのが、アクションゲームを遊ぶ人の姿だった。

私はビジュアルの担当になった。
ヴァリスというアクションゲームはアニメ好きの人が作ったアクションゲームで
お目目の大きい美少女が主人公のアクションゲームでかなりヒットした。
私が手がけるヴァリス2はそれの続編だった。
絵は止め絵で、セリフは字幕のように絵の下に表示される。
絵とストーリーで見せるアドベンチャーゲームの形式に近い。
ストーリーで語るアクションゲームというのが、当時のT社が確立した
パソコンゲームのスタイルだった。
ファミコンでは容量不足から絵を何枚も表示することは出来なかった。

ヴァリスという美少女ゲームはかなりオタク受けが良かった。
どのくらい評判だったかというと、Aさんが関わったヴァリスのプロモーションビデオが
あったくらいだった。
私の机の真後ろのTさんもガイナックスの王立宇宙軍で原画を担当していた経験があった。
Tさんはヴァリスの主人公である「優子」の大きな目が気に入らなかったが、
副社長の監修が入り、二作目も前作に負けずにとても大きな目になった。
私はアニメーターに憧れを持っていた。なにしろ絵だけで生計を立てている人たちである。
それにアニメーターの描く絵はとてもインパクトが強くて、
原画と呼ばれる鉛筆の絵は、見る目を惹きつける。
原画とその清書はTさんとOさんに分担することになった。
ストーリーを絵に起こすための絵コンテと呼ばれるものは
Tさんが描くことにした。

うろつき童子というモンスターと色気が売りのアニメを参考に
Tさんはノリノリで絵コンテを描いた。
あまりの絵の枚数に、ディスクの容量が足りないということになった。
PC8801のフロッピーディスクは一枚360キロバイトしかない。
これをプログラマーが技を駆使して400キロバイトに増やすのだが
それでも今のフロッピーディスクの1/3しか無いのだ。
ビジュアルで使える絵の枚数といえば一章につき5枚くらいだった。
Tさんは当時のパソコンの非力さに、落ち込んでしまった。
アニメーターにとっては絵を動かすのが表現であるから、
止め絵ばかりのパソコンでは欲求不満もたまる一方である。
当時のゲーム界では口がパクパク動くだけで、
「凄いアニメーションだ!」と平気で広告を打っていた。
私はPC88に合わせた動かす絵の作り方を工夫した。
PC88のディスクベーシックで簡単なアニメーションプログラムを書いて、
天才プログラマと呼ばれたYさんに、アセンブラの動画ルーチンを作って貰った。
これで一カットずつ少しでも理想に近づけるように動画させた。
OさんとTさんは不満げであったが、
私はPC8801でこれだけアニメ絵を動かしているのは
ここだけだと感じていた。

私とOさんとTさんとKさんはいつもいっしょに食事をした。
ゲームの仕事は忙しくて食事をすることが最大の楽しみとなる。
ここら辺は以前の仕事と大して変わらなかった。

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