No.1 涼子さんといっしょ
マンションのベランダから新宿の高層ビルが見える。
ここは高円寺マンションの701号室。
無数の家々が果てまで続く中野区。
すべて家族が収まっているかと思うと、なぜか空しくなる。
僕はめがねくん。
「おしゃれな眺め、やっぱここにして良かったね」
涼子さんはW大学に三年、在学している。
演劇学部といっているけれども、W大学にそんな学部があるのか
僕は知らないし調べる気もない。
僕は無学だからな。
「なに考えているの?、もっと人生を楽しみなさいよね。
そのめがねもやめにして、コンタクトレンズにしたらどう?」
「コンタクトはキザだし」
「そんなんじゃ、彼女出来ないよ」
「あの、夜はどうするんですか?」
「夜?」
「いっしょの布団で寝るんですか?」
「2LDKなんだから、別々に暮らすに決まってるでしょ」
「お父さんから、一緒になるようにお願いされています」
「演技よ、いっしょのふりをすればいいの」
「種を植えるように言われました」
「タネ?」
「子供のことだと思います、お父さんはシャイですから、
直接的な表現はしませんでした」
「ねえ」
涼子さんは髪をなびかせながら、僕を見た。
涼子さんの瞳は美人の瞳だ。
「子供ってどうやって作るか知ってる?」
「だいたいは」
「めがねくん」
涼子さんは胸を手すりに載せるように乗りだすと、
スカートの生地にはお尻が張り出す。
「したことあるの?」
「したことはないです」
「童貞クンだあ」
「ええ、まあ…」
「アタシはあるよ」
「やっぱり」
「失礼ね!」
涼子さんはベランダから部屋の中へ入った。
引越センターの段ボールが積まれたままだ。
「早くこの邪魔なダンボール箱をほどいて、
生活できるようにするの。
わかったかな?めがねくん」
「はい…」
僕は涼子さんのいいなり。
これも作戦のうちだ。
つづく
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