No.18 星空と女の汗
 
同居人を追い出して彼氏と楽しく過ごそうなんて
酷いよね。
僕の気持ちなんか考えていないんだ。
 
涼子さんに追い出されて夜の高円寺をさまよい歩く。
ポリエステルのジャージに夜の空気が気持ちいい。
 
僕は涼子さんの彼氏の顔を知らない。
でも二人が何をしているのか想像は渦巻く。
二人の裸を想像して血流は股間の一点に集中する。
僕はジャージの前が持ち上がるのを感じ、前屈みになる。
ジーパンにすれば良かった。
 
高円寺の夜。
さまようといっても南北に延びる商店街を歩くだけなんだけれど。
ラーメン屋とか本屋とか、木造の雑貨屋、街の電気屋、餃子を売る中華料理屋とか
あんこの入った大判焼きとか、パチンコ屋、居酒屋、カラオケ屋、ビデオレンタル屋。
ゲームセンターは誰も踊らないダンスゲームが置いてある。
一台置いてあるだけじゃ恥ずかしいよな。
その三件先がピンクの看板にコギャルの写真が飾っているお店。
この手の写真って必ずガングロ、ルーズソックスのコギャルだよな。
風俗の看板を背に兄さんが声をかけてくる。
 
「さあ!、おにいさん、お一人様!、どうぞお入りになって下さい」
 
僕は早足で50m位逃げた。
誰もいない路地裏。
高円寺の裏って住宅に挟まれるように道が狭くて登り下りがある。
無数の丘の上に繁栄を築いたような住宅街だ。
この瞬間、人通りが無い。
僕はジャージの中身を握ってみる。
とても元気だ。
堅い。
野外で握ると興奮が高まる。
ヘンタイだ。
そして701号室では今頃、涼子さんと彼氏が激しい抱擁を…
うわっ。
気が狂いそう。
いっそここで抜いちゃおうか。
ばかばか。
ヘンタイはいやだよう。
 
正しく昇華させる方法を考えなきゃ。
彼女ができればいいけれどそれは無理そうだし。
さっきのお店とか…
なんかいやだ。
Hビデオ見ようかな。
涼子さんにそんな姿見られたくないし。
 
ランナーが走ってくる。
真っ赤なスポーツウェア。
女性だ。
下はジャージで僕の服装と似ているな。
こちらに向かってくる。
夜なのに平気なのかな。
シューズはアスファルトをしっかりとらえ
小柄ながら張り出した腰と胸が揺れている。
実は暗くてよく見えないんだけれど。
 
「こんばんは、また逢いましたね」
 
鈴木さんだ。
 
「走っているんですか」
 
見ればわかる、僕の会話は貧困だ。
鈴木さんはうっすらと汗を滲ませて。
 
「今夜は星も見えるし、こういう晩は走ってみたいじゃない」
「健康的ですね」
 
この返しもあたりまえ過ぎるな。
 
「ねえ、名前なんていうの?」
「え、僕ですか?」
「聞いてなかったもん」
「僕はめがねくんです」
「めがねくん、お散歩?」
「ええ、同居人が取り込み中でして」
「かわいそー、追い出されたのね」
「いいんです、出かけたい気分だったし」
「良かったら、この先の公園で休憩しない?」
「公園ですか?」
「ひとりだと恐いけれど、めがねくんがいるから安心」
「僕はかまわないですけれど」
 
鈴木さんはうれしそうに僕を見ると手を両脇に揃えて、走る手振りをする。
 
「今夜は野生の血が騒ぐなあ」
「僕も走るんですか?」
「すぐそこだから歩いていこう」
 
鈴木さんはふざけるように僕の二の腕に乳房を押しつける。
ブラ、つけてない。
僕は爆発寸前で前屈みになる。
 
「どうしたの?」
「あ、別に」
 
鈴木さんは僕の股を見逃さなかった。
 
「元気だね」
 
かわいい目だ。
鈴木さんの汗は闇夜に立ち上る蒸気だ。
全身が濡れている。
 
「私も元気だよ、ほら」
 
といってシャツを2秒くらいめくる。
汗まみれの乳首。
 
「なんちゃってね」
 
僕はこの人について行くしかない。
薄暗い街灯が続く路地を、鈴木さんに歩幅をあわせるようにして歩いていった。
 
つづく
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