無謀

そのシステムは「地理情報システム」と呼ばれた。
それをVAXからPDP−11に載せ換えるのが私たちの仕事だった。
移植と呼ばれる作業である。
そのお互いの機械は、同じ米国DEC社のコンピューターであり移植作業は簡単である、と思われていた。
私の会社から派遣されたのは私を含めて、KさんとTさんの三人であった。
7月頃に始まったその作業は8月末で完成させるスケジュールが組まれていた。
最初の作業は、瀬戸内海に面する玉野というところから送られてきたディスクを読み出すことから始まった。
このディスクはVAX用のものであったのだが、これをマシンにセットするためには
数十人の人たちに作業をいったん中断してもらって、VAXを占有してディスクを交換しなければならなかった。
そこの管理者は、いくつものVAX上の仕事を管理していたため、とてもいやな顔をしていた。
ディスクからデータを吸い出してPDP−11に送ると、今度はそのデータをリスト用紙と呼ばれる紙に
すべて印刷する。
印刷にはプリンタを使うのだけれど、PDP−11のプリンタはオルガンくらいの大きさの
金属の固まりであった。とくにインクリボンと呼ばれる墨のついた布の帯の幅は30センチくらいあった。
それと紙を挟み込んで、プリンターヘッドと呼ばれる機械の間を通ると墨が紙につくようにして文字が印刷される。
端末機のところで印刷用のコマンドを打ち込み、プリンタのところへいくと大きな断続音を響かせながら
印刷を始める。
時間がかかるので、自販機のコーヒーでも飲もうといったん廊下へでる。
戻ってきたとき、さっきと違う音がしている。
のぞき窓から中をみると紙が動いていない。
プリンタの電源を止め、まるで学校の焼却炉のようなハンドルを引くと、
100Kgはあるであろう金属の固まりが手前に開き、詰まった紙が金属の平板に張り付いている。
そして文字を打つ部分がちょうど鋸のように切れていた。
こんな豪快な情報機器は後にも先にもこのプリンタだけである。
このプリンターこそが、PDP−11自身が歴史的使命を終えようとしている象徴だった。
その後、私たち三人は悲劇へと突っ走ることになる。

つぎ

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