潮風

そのおじさんは豪快に笑った。
事業部の名物おじさんで、一番偉い主任であったと思う。
僕たちはそのおじさんのプロジェクトのために瀬戸内海まできたのだ。
岡山の山中に位置するその事業部は、電子制御機器を開発製造する中枢のようなところだったと思う。
いくつかの建物の一つにオフィスとコンピュータールームがあった。
そこにあるVAX(バックス)は国内でも最大級のもので、
数十台の端末機のうち何台かは別の建物まで伸びていた。
豪快なおじさんは僕たちに、新開発のシステムについて概要を説明してくれた。
私たちの使うマシンは東京のものと同様にPDP−11であったが、型が古く性能は一段落ちた。
でも、私たちの専用機のように自由に使えるとのことで、PDP−11というコンピューターに関しては
ずいぶん勉強になった。

PDP−11はその時代のアメリカの現用機で、仕事も数多くあり、かなり稼げたらしい。
UNIXというオペレーティングシステムのベースにも使われたくらいだから、傑作機と呼べるかもしれない。
専門的な話になるが、6809というCPUがこのPDP−11の内部構造にそっくりで
モトローラ社はPDP−11をまねて6809を作ったのだな、と私はいまでも思っている。

スケジュールのリミットは9月末ということで、私とKさんの作業は再開した。
私たち用に会議室を一つ貸してくれたので、机上作業とお昼のお弁当には助かった。
そう、岡山の仕出し弁当は、東京でよく見かける赤いプラスチックの弁当箱と同じだった
仕出し弁当の構造は全国共通なのか?

夜になるとエアコンを止められることもあり、そんなときは窓を全開にした。
瀬戸内海の風は生ぬるかった。
ときどき、潮の香りがするような気もした。
なにしろ、ここは造船の町なのだから。

つぎ

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