人間模様
油絵を描き始める。
教室は絵の具と石油の匂いがし始める。
石油は絵の具のついた筆を洗うのに使い、
教室の両端に石油缶が置かれている。
石油缶は上の部分を缶切りのようなもので切り取られていて
底から10センチ位のところに金網を取り付けてある。
その中に石油と水が満たされていて
水は底から5センチ位までに入っている。
これで絵の具の付いた筆を洗う。
絵の具の色の素は石油より重いので缶の底に沈み、水に取り込まれて浮いてこない。
油絵科だけあって、みんなのって描いている。
一面炭色のデッサンに比べれば、色付きの絵のほうが楽しいに決まっている。
それに油絵を描くスタイルというのは憧れる部分でもある。
ピアノが弾けるくらいかっこいいことだ。
油絵の具は芳醇な香りがする。
これは油に混合されている松脂の香りだ。
しかも油絵のもつ、この高級感がいい。
これは世界に一枚しかない貴重な絵だ。
モチーフはミルクポットとキウイと透明ボールと厚紙。
練習用の典型だ。
この時期になると隣同士で打ち解け合うようになって
お互いの絵を誉め始める。
絵はうまい下手が出やすい。
自然とうまい絵の人のところに人が来るようになる。
細かくギャグをかます名物お母さんが現れるのもこのときだ。
ギャグお母さんのグループは楽しく絵を描く人たち。
一方でかなり真剣な目つきのお母さんグループも出来た。
この二つのグループはきれいに分かれる。
これに無所属派のマイペースお母さんが数人間に散らばる。
若者グループはそれぞれ思い思いに描いている。
アトリエには冷房が無いのだが、不思議と暑くない。
先生は途中何人か変わった。
三人位だったか。
一人の男のベテラン先生と
私達のグループで夕食会を開いた。
先生は一軒家で一人暮らししていた。
女性達はその先生がフェミニストであると噂していた。
その女性達は別の先生に、噂の先生のことを聞いていた。
するとまじめなその先生は困ったなぁという顔をしていた。
なにが困ったのかは僕にはわからないけれど。
つぎ
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