その女性とは

そういえばE子さんのことを忘れていた。
まあ、全く進展はなかったということだ。
しかも鉄骨CADの開発で私は半蔵門のそばのビルに通うことになったので
本社の渋谷とは離れてしまい、ますます縁は遠くなるばかりだった。
それとは別に、私と仕事をするのはSさんという女性だった。
彼女はすっかりFORTRANをマスターしたバリバリの科学技術系・女だった。
小柄でおしゃれでかなりのボイン(失礼)だった彼女は社内でモテモテだった。
社交的で話しやすいのもあったが、なにより若い男の数が多かったのと残業続きで
異性との交流が少ないので、身近な彼女を取り合いになるのも無理はない。
そんなモテモテS嬢と私はコンビを組んで、合掌梁の出力図と大梁の出力図を担当した。
私の心はE子にいっていたが、S嬢の胸は結構気になっていた。
彼女は開発開始から鉄骨CADに関わっていて、
安全ヘルメットをかぶった写真を見せてくれた。

私はS嬢に案内されてコンピュータルームに来た。
そこにあるのはNEC製のミニコン、MS−140だった。
これを常時五人くらいで使っていると聞いて
ああ、大変な仕事になるな、と思った。
以前使っていたVAXやHP1000という機械に比べると
MS−140は開発者泣かせの使いにくいOSを積んでいた。
特にエディタというツールはプログラマの必需品であるにもかかわらず
ラインエディタと呼ばれる、かなり貧弱なものだった。
S嬢は慣れた手つきでそれを使いこなしていた。
彼女が使いこなせば、他の男どもが使わないわけにはいかない。
彼女が残業すれば、他の男どもが残業しないわけにはいかない。
彼女が休日出勤すれば、等々、彼女の貢献度は計り知れないものがあった。

S嬢には彼氏がいた。しかも社外の、コンピュータとは一切関係ない人だった。
それが一種彼女へのアプローチへの歯止めになったのであろうが、
それでも皆、頻繁に彼女へ入れ込んでいた。
私はちょっと得した気分だった。
そのときに積極的に押せば、もしかしたら関係出来たかもしれないが、
私はE子のことばかり考えていたので、そういう風にはならなかった。
男女というのはそう簡単にはいかないものである。

つぎ

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