No.8 東京上空Tシャツの女
気持ちのいい朝だ。
窓から太陽が入ってくる。
僕はベッドから部屋の外へ出る。
夕べ、僕は下着姿で寝た。
その下着だけの格好で涼子さんとの共有部分へ出るのだ。
いいんだ。
僕のアレを見せちゃったんだからな。
涼子さんの部屋の扉は閉まったままだ。
『留守のあいだ、勝手にはいるなよ』の張り紙がしてある。
僕はベランダに出てみた。
新宿が見える。
風のテラスにいる僕は、ペルージアの中田英寿だな。
無愛想なところも僕そっくり。
真下は道路だ。
ここから落ちたら、頭とか割れるだろうな。
オフィスビルが空気の層の中に沈んでいる。
みんな、いまごろ働いているんだよな。
「こんにちは」
隣のベランダから女の人が見ている。
Tシャツが風に揺らいでいる。
「こんにちは…」
「その部屋、引っ越してきたんですね」
Tシャツの女の人は、胸の辺りから色気を漂わせている。
「学生さん?」
「僕は…、その…」
「ぷーたろーだ」
そうか、僕ってプーなのかも。
「私と同じだね」
話題、話題…
「この部屋はずっと空き家だったんですか?」
「どうかな、マンションの隣同士って、つき合いないし」
「そうですか…」
僕って、こうやって話題が切れてしまう。
Tシャツの彼女は新宿のほうを見ている。
「こんな日は出かけたいよね…」
「はい…」
名前なんているのかな。
あとでポストを見ればわかる。
涼子さんより大人の体つきだ。
いくつなのかな。
Tシャツの彼女は少し乗りだす。
下はパンティ一枚。
見たい!
凝視したら変な人だと思われるし、でも見たいし。
Tシャツの彼女は僕に笑顔をくれた。
「退屈だし、ここから飛び降りちゃおっかな、なんてね」
「え!?ダメです、もったいない!」
「うそ、えへへへ」
ああ、冗談を冗談で受け取れない僕はつまらない奴だ。
しかもどこかで聞いたようなセリフだし。
「いい人ね」
「え…」
「これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
Tシャツの彼女は口元に笑みをこぼし、そのまま部屋に戻った。
僕もよく考えたらパンツだ。
夕べは涼子さんに見られて、今日は大人の女に見られて、
ちょっといいかも。
僕ってヘンタイかな。
つづく
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