No.16 中指の先には
 
鈴木さんの居間。
僕は黒い皮のソファに包まれ、その横にはTシャツ一枚だけの鈴木さん。
 
「恥ずかしい…」
 
体温の高い肌。
湿った肌は少しピンク色。
足は少し広げている。
Tシャツの裾の下から艶のある体毛が見える。
鈴木さんは照れくさそうだ。
 
「見て…」
 
鈴木さんは膝を軽く広げる。
やわらかい腿が僕の足に触れる。
大切な部分はよく見えないけれど、広げられた両腿は美しい。
女性のカラダってなめらかだ。
鈴木さんは僕を見ている。
なんか恥ずかしさと緊張で汗が出るな。
 
「暑い?」
「大丈夫です」
「汗が出てるよ」
 
鈴木さんは立ち上がるとチェストの引き出しを開ける。
立ち上がった後のソファが少し湿っている。
これがHotDogとかで読んだ、女性が感じるというやつか…
ふたたび僕の横に座り、額の汗を拭いてくれた。
ほどよい厚みの唇。
潤んだ目。
 
「ごめんね突然呼んで。困ってるでしょ?」
「そんなことないです」
「やさしそうな人だったから」
「どうも…」
「ちょっと寂しくなっちゃって…こんな女の人、イヤだよね」
 
どうしよう。
ここまま帰ることになるかな。
でも、なんか、もっとなにかしたい。
この人も期待してそうだし…
 
「あの」
「なあに?」
「さわってもいいですか?」
「やだー」
「すみません」
「どうぞ、好きなところを…」
 
鈴木さんは目を閉じて、ソファに寄りかかる。
これは僕の人生にとって最初で最後のチャンスだ。
僕は腿に触れてみる。
張りのある肌。
指が沈むようにソフトだ。
鈴木さんは「は…」っと息をもらす。
僕の指でも女性は敏感に反応するんだ。
恋人達はこれを毎日しているのかな。
うらやましい。
 
「いやらしい」
「すみません」
 
鈴木さんは僕の手を取ると、そのまま大切な部分へ忍ばせてくれる。
黒い艶のある体毛。
その奥は体液で湿っている。
僕はその部分のぬめりを、生まれて初めてこの手で感じた。
鈴木さんは僕の肩に手をかけて目を細めるように
僕の指先を感じ取っている。
大人になった気分だ。
コレで僕も一人前の男なんだ。
中指の先は奥へと通じる隙間だ。
中指に力を入れると、滑るように吸い込まれていく。
鈴木さんが抱きついてくる。
敏感な部分なんだ。
 
「すごくいいよ…」
 
僕の指が女性を感じさせている。
強い男になった気分だ。
 
ドアベルが鳴る。
僕と鈴木さんは目が合う。
 
「大変」
 
続いて鍵音。
 
きっと昨日の彼氏だ。
僕は素早く立ち上がるとサッシを開いてベランダに出た。
鈴木さんもベランダにでると、
 
「ごめんなさい、隠れていて」
 
といってサッシを閉じる。
玄関で誰かを向かい入れる音がしている。
見つかるかもしれない。
そしたら殴られる、絶対!
引っ越してきたばかりなのにこれはやばいよ。
ベランダから行けそうだけれど7階だもんな。
僕は膝を抱えるようにして出来る限り小さくなった。
 
目前には干したばかりの柄物のシャツがぶら下がっている。
パンティって小さいんだな。
南風に乗って野球のデイゲーム中継が聞こえてくる。
大型新人の松坂を迎える歓声。
 
鈴木さんに玄関へ導いてもらえたのはそれから10分後のことだった。
 
つづく
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