No.17 涼子のカレシ
 
西の空に太陽がオレンジ色に沈む頃、
僕の居る701号室は夜色の青に染まっていく。
軽い眠気にベッドに横たわるとフトンに包まれるように寝てみた。
寝るというよりは昼寝という感じだな。
居間へのドアは開けてあるのでゆっくり暗くなっていくのが判る。
 
電車の吊り広告にある、なんとかまなみだったか、
そのみずみずしい水着の写真。
本屋さんにもヌード写真集が入り口に積んであるし
誘惑の多い時代なんだよな。
 
新しいフトンは気持ちがいい。
 
ドアが開く音。
帰ってきたな。
 
「静かに入ってよ」
 
涼子さんの声だ、友達が来ている?
 
靴を脱ぐ音は涼子さんともう一人だ。
僕はベッドから身を起こしてドアの方を見る。
 
「ただいま、なんだ寝ているの?」
「おかえり…」
「友達来てるから、このドア閉めるよ、しばらく出てこないでね」
 
涼子さんは、僕の返事も聞かずにドアを閉めた
ドアの向こうからはカーペットをする足音が聞こえる。
それとスーパーの袋の音だ。
100円ショップの袋の音とも言えるけれど…
 
「ここに座ってて」
「きれいじゃん」
 
男の声だ。
彼氏?
本当につれてくるかあ。
僕のことはどう説明しているのか。
 
ドアのところへ耳を近づけてみる。
コンロとケトルの音。
コーヒーメーカーとカップの音。
 
「ルームメイト、誰?」
「友達」
「ふーん、挨拶とかしなくていいの?」
「あとで紹介する」
「女?」
「うん」
「ふーん」
 
無茶だー。
そんなのやだよー。
 
「高そうだもんな、この部屋、そうか涼子の事務所で払ってくれたりしてんだ」
「まさか自腹だよ、自宅の家賃なんか払ってくれないよ」
「ふーん」
「コーヒーどうぞ」
「ふーん、家庭っぽいじゃん」
「そう?」
「涼子…」
「あー、もうやめてよ…、友達いるんだから…」
「いい眺めだよなー、ふーん…、俺も住んでいい?」
「ダメ、お父さんに怒られちゃうよ」
 
僕って今、凄く邪魔だろうな。
外へ出かけたいな。
息が詰まりそう。
 
「ふーん、やっぱ涼子の友達に挨拶しようか?」
 
ドアが開く。
やばい!
 
顔を出したのは涼子だ。
 
「めがねくん…」
 
手にコーヒーを持っている。
 
「涼子さん…」
「これ飲んで」
 
僕は涼子さんからコーヒーを受け取る。
 
「ごめんね、アタシ達、すぐ部屋に入るから」
 
涼子さんはそういうと、ドアを閉めた。
ドアの向こうのカレシは涼子さんとのランデブーを待っている。
え? ランデブーってなにって?
そんなこときまってるじゃないか。
 
「アタシの部屋にきて」
「ふーん、ここか」
 
隣の部屋のドアが閉まる音。
僕は部屋から出る。
 
「あう…」
 
涼子さんの吐息。
僕は耳を澄ました。
 
「するか?」
「だめだってば、汗で不潔だから…」
 
ベッドが激しく軋んでいる。
 
「ちょっと待ってて」
 
ドアを開けて涼子さんが出てくる。
乱れ髪だ。
涼子さんは懇願するように手を合わせながら
 
「ごめん」
「出かけます」
「ごめんね」
 
僕は玄関で靴を履き、靴ヒモをきつく結ぶと夜の高円寺へ出かけた。
 
つづく
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