No.24 侵入者
ドアベルの音がした。
誰だろう。
ロビーのオートロックは開きっぱなしなんだろうな。
シャワーの音が止まり、シャワールームのガラス越しに涼子さんが顔を出す。
「誰だと思う?」
「僕を尋ねてくるような人はいないです、ここに住んでいること誰も知りませんから」
「出ない方がいいかも」
「隣の人かもしれません」
「なぜ?」
「ちょっと近所づきあいがありまして」
「そう」
僕は壁掛けのインターホンに出てみる。
「ハイ、どちら様でしょうか」
インターホンから返事は来ない。
人の気配はある。
涼子さんはタオルを胸と腰にあてたまま出てきた。
「貸して」
涼子さんはインターホンに耳をあてる。
僕は涼子さんの無防備なお尻に気を取られる。
「いたずらでしょうか?」
「静かに」
涼子さんと僕は耳を澄ます。
インターホンからは何も聞こえない。
「切ったみたいですね」
涼子さんは玄関のところまで駆け寄っていくと、ドアの小さなレンズを覗き込んでいる。
涼子さんが肌色の後ろ姿を露わにするほどドアの向こうを気にしている。
その人物は彼氏か、プロダクションのお偉いさんだろうか。
ドアを叩く大きな音。
高い賃貸マンションの立派なドアを殴るなんて、ご立腹のようすか?
涼子さんは、飛ぶようにして僕のところまで戻ると、
「電気全部消して」
と小声で叫び、僕は手を出すまでもなく涼子さんの手で部屋の中は真っ暗になった。
涼子さんは僕の手を取るとトイレの中へ導いた。
トイレの中から鍵をかけると僕と涼子さんは闇の中のふたりとなった。
僕の手には柔らかいものが当たっている
涼子さんはかまわず息と止めるようにして動かない。
「誰なんです?」
「静かに」
鍵の開く音。
靴を脱ぐ音。
廊下を歩いている。
良く聞き取れないが二人の男の声だ。
「まだ帰ってないじゃないか」
「インターホンで返事をしましたから」
「そうか隠れているな」
室内のドアを開ける音がする。
僕の部屋か涼子さんの部屋だろう。
涼子さんは僕にしがみついてきた。
僕も涼子さんを抱きしめ返した。
半分Hな気持ちだけれど、守るのは男の役目だから。
スイッチの音。
トイレのドアの隙間から廊下の明かりが漏れてくる
トイレのドアに軽い衝撃音。
「はっ…」
涼子さんは強ばるようにしがみつく。
普段からそうしてくれたらうれしいけれど。
涼子さんのあたたかい頬が僕の横顔に触れている。
ドアノブが軽く回る。
涼子さんの唾を飲み込む音が耳に伝わる。
内側から鍵がかかっているので開かないはずだ。
けれども隠れていることは見え見えだ。
表からドアを開けようと引いている。
何度も引く。
頭の中は見つかったときの言い訳が渦巻く。
『僕たちは同居人です。
友達です。
部屋を共同で借りているだけで、
あなた方の想像しているようなことはないのです』
裸の女の子とトイレに隠れて、そんな言い訳通じるはずもないな。
ドアが静かになる。
背もたれ付きのイスでドアを破壊するつもりか。
僕と涼子さんは震える子猫だ。
寄り添うように時を待つ。
暗闇に時間は長く感じられ、ドアの向こうに気配はない。
スイッチの音と共に隙間の明かりも消える。
「帰ったんでしょうか?」
「私たち、最後になるかもしれないね」
「あの人たちは誰ですか?」
「最後の記念…」
涼子さんは僕のメガネを外すと激しく唇を合わせてきた。
僕も負けずに舌を絡ませる。
涼子さんの大胆な行動が好きだ。
僕はルパン三世で涼子さんは峰不二子だな。
涼子さんの胸の先端が僕のシャツに食い込む。
涼子さんは唇を離すと、潤んだ目つきで僕を見つめる。
「開けて…」
ノブを右に回してトイレの鍵を外す。
そしてドアをゆっくりと開いた。
つづく
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